第4回 ロジカル・プレゼンテーション ~お客様のご要望に即した提案力~
以下は、『人事マネジメント』2016年7月号「ロジカル・コミュニケーションスキル実践講座」での連載記事(全6回)です。
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●はじめに
プレゼンテーション研修は実施していても,成果に結びついていないという話をよく聞きます。このようなときは,自己紹介や会社紹介など汎用的なテーマで実施している場合が多いようです。
効果的に研修を実施するには,業務課題,つまり実際にお客様にご提案する資料を活用して研修することが重要です。単純な話し方の改善ではなく,論理的に根拠を明示することを意識したプレゼンテーション研修にすることです。
具体的には,30秒でわが社はお客様のニーズに応えられるパートナーであることを証明し,説得力ある話し方で信頼をつかむことを習得できるよう研修目標を定めてください。
●研修を成功させるポイント
従来のプレゼンテーション研修は,汎用的な内容を教材として発表させ,それをビデオに撮影して身振り手振りや話し方について学習することが多くありました。この種の研修を実施しても提案型営業のスキルは向上しません。
その結果,ご質問のような状態になってしまうのです。研修を企画するときは,研修提供会社と守秘義務契約を結び,実際の業務内容を教材としてトレーニングを計画することをお勧めします。
また,発表自体の振り返りだけでなく,提案資料の添削指導も依頼すると効果が高まります。もちろん添削は,正しい日本語で書かれているかの確認ではなく,顧客のニーズに沿っているか,情報の過不足はないかという視点でのアドバイスが必要です。
●外部講師の特徴
「専門的な内容について外部講師は理解できない。従って,業務課題を用いた研修は実施できない」と考える人がいるでしょう。しかし,それは違います。ベテラン講師を起用すればよいのです。外部の人が分からないのは専門用語です。用語さえ理解できれば,解決します。
なぜなら,どのような業種・職種でも「お客様は何を求めているのか?」を理解する,そして,「お客様がまだ気づいていない問題点を指摘・提案する」ことがプレゼンテーションの本質だからです。
この本質から考えて,必要な情報を整理し,初めて聞いた人でも理解できるように内容を構築していけばプレゼンテーションは成功します。プレゼンテーションが失敗する理由は,相手にとって不要な情報まで説明するからです。
例えば,技術者は「今回のプロジェクトがいかに困難であるか」「どのようなところに苦労したか」を詳しく話しがちです。しかし,お客様はそのようなプロセスはどうでもよいと感じます。お客様が知りたいのは「自分たちのニーズに応えてくれているのか?」,あるいは「その商品で何ができるか? 自分たちのビジネスにどのように貢献してくれるか?」なのです。この視点の指摘は外部講師が得意です。
●社内講師の特徴
プレゼンテーション研修は,社員が講師を務める組織も少なくありません。しかし,内部の人が講師を務めると研修がうまくいかないこともあります。
例えば,内部であるがゆえに,情報を知りすぎていて,説明が不足していても気づかなかったり,他社との優位性の比較が不十分なのに,ひいき目に見てしまったりすることがあります。
これは,プレゼンテーションに限らず,他の研修でも同様に発生します。もちろん,より厳しい視点でコメントをすればこの問題は発生しません。しかし,年齢や役職,業務実績が上でないと,改善指摘を聞き入れてもらうことは現実的には困難です。
情報を熟知していることはときに弱みになりますが,もちろん同時に強みでもあります。社内講師は外部講師と比べて,業務内容面へのコメントが充実します。特に,欠落している情報があることを指摘できるのは社内講師です(図表1 参照)。
●お客様のニーズに最初に応える
プレゼンテーションを成功させるポイントは,お客様が必要な情報を,分かりやすい言葉で,過不足なく最初の30秒以内で簡潔に概要を伝えることです。概要のまとめ方は,前回のロジカル・ライティングで「総論」のまとめ方をご紹介しましたが,ここで改めて詳しく説明いたします(図表2 参照)。
総論では,結論やポイントから説明をしてください。もったいぶって最後に結論を説明するような構成ではいけません。ビジネスのプレゼンテーションは途中の経緯を楽しむことを目的にしていません。経緯を楽しむのは,映画や推理小説です。映画は映像のインパクトやそのストーリーを楽しみます。推理小説を読むときに最初に結論を探す人はいないでしょう。
しかし,ビジネスでは,まずは結論です。プレゼンテーションでは,ビジネスが成功するか,検証・確認がしたいのです。
例えば,『弊社の○○を導入することで,御社の利益率が5%向上します』や『先日ご訪問したと
きにお聞きいたしました御社の課題△△について,弊社サービス‘□□’で解決ができることをご説明に参りました』と話し始めてください。このように結論から話すことによって,プレゼンテーションに対する聞き手の興味・関心が高められます。プレゼンテーションは,話し方ではなく,内容で勝負をすべきです。
提案型の営業力を向上させる研修は,どんな業界の人にも通用する一般的なテーマではなく,このようにお客様へご提案する資料・内容を活用する企画で実施する必要があるのです。
●現状・必要性・目的の順で,分かりやすく説明する
総論では,まず,現状の共有から始めます。お客様の現状は,プレゼンテーションの本番を迎える前に,担当者間で様々なミーティングが持たれているはずですから,そのときに質問し,把握しておくとよいでしょう。
次に,「課題」や「必要性」を説明します。ミーティングでは,現在の問題点や今後望んでいることは何かを質問して,お客様が何を望んでいるのか,つまりニーズを理解しておきます。
そして,トピックと目的を「○○○を□□□する」という形でセットにして説明します。例えば,「有望な新事業Xを企画(←トピック)したので,ご提案(←目的語)いたします」というように説明してください。
プレゼンテーションをする際は,まず,お客様の現状を説明し,次にニーズについてどのように理解しているかを話してください。相手が述べたキーワードをそのままプレゼンでも引用すると,お客様から「ウチのことをよく理解してくれているな」と共感が得られます。それだけでなく,聞き手のニーズとあなたの提案内容がロジカルに結びつけられます。
目的の次は,結論を示す 目的の説明の次に,結論を明示してください。そして,結論を証明するように,関連情報や理由を展開します。今後の課題,予想される疑問や反論に対しても,先取りして触れておくことも大切です。
パワーポイントでスライドを作成する際は,1つのトピックで1枚にします。1つのスライドに複数のトピックを入れることはもちろん,小さな字でビッシリと書くことも好ましくありません。
●「誰」と「なぜ」を考えて,プレゼンは短く
総論は必ずしも30秒かける必要はありません。なるべく短くしてください。例えば,「誰に」に注意して,情報の取捨選択を進めます。具体的には,背景や経緯についてすでに全員が理解しているのならば,割愛してください。
お客様も様々です。担当者は詳細の事情を承知していても,その場には詳しく理解していない人もいるかもしれません。もし,そのような人がいると思うなら,「そもそも,何のために話をするのか」から丁寧に説明をしてください。
また,専門用語や略語をどれくらい理解しているかといった聞き手の知識レベルも事前に把握しておかないと,提案資料がつくれません。
このように,「なぜ」と「誰に」が明確になると,プレゼンの出だしは自然と決まっていきます。ジョークや格言など,「つかみ」は必要ありません。提案内容で,聞き手の興味・関心を引くことができるのです。
●対話で,プレゼン内容に聞き手を惹きつける
プレゼンテーションとは,一方的に説明をすることであると思いがちですが,説明の途中で聞き手に問いかけたり答えてもらったりと,相互通行にすることが成功への道標となります。
プレゼンテーションで「お客様に,より興味を持ってもらうためにはどうしたらよいでしょうか?」という質問をよくいただきます。このような質問をする人は,たいてい資料作成が良くできている人です。むしろ,でき過ぎているので,パワーポイントや資料の情報も多く,説明も一方的になりがちです。
情報が多いと,時間内にすべて説明をしようと,早口で捲し立ててしまいます。また,プレゼンもパワーポイントに頼りがちです。パワーポイントは話し手を楽にしますが,聞き手を情報の洪水で苦しめます。結果として,プレゼンは失敗してしまうのです。
プレゼンテーションを成功させるには,与えられた時間の8割くらいを使った説明シナリオをつくり,残り2割を聞き手との対話時間で構成するとよいでしょう。
プレゼンテーションでは,お客様に淡々とした説明をしないでください。現状や問題について述べ,どのようにして解決を図っていくかをお客様と一緒に考えるように説明をしてください。
そして,課題や争点となるところについては,お客様に問いかけ,より深く考えられるようにするのです。問いかけるように話すと,「学校での授業のように,当てられるかもしれない」と聞き手は考えます。この緊張感が聞き手の集中力を向上させ,内容の深い理解につながります。この方法を活用すると,聞き手は決して眠くなりません。
●まとめ
提案型営業を成功させるプレゼンテーションは,身振り手振りや話し方だけのトレーニングで身につくものではありません。
教材として使うテーマは,実際の自社提案書が最適です。講師は,内部(社員)講師・外部講師にそれぞれの利点がありますが,この場合は顧客視点でアドバイスができる外部講師がお勧めです。
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