第5回 ロジカルファシリテーション ~発想の転換で会議の生産性を向上させる~
以下は、財団法人関西生産性本部の機関誌「KPCニュース」2009年1・2月号での連載記事です。
●はじめに
連載もいよいよ終盤である。これまでに学習した三角ロジックなどロジカルに考えるツールを活用することを前提として、今回は会議を効率的に進める「ロジカルファシリテーション」についてみていく。(図1参照)会議についての最大の不満は、決まらないことである。本稿では決めるための思考方法について詳しく学習する。会議はその特性上、誌面では特に説明が難しい。直感的に理解していただけるように、ストーリー性の保持と図解を心がけたので図を連続して御覧いただければ会議の進行方法がお分かりいただけると思う。
概要
問題解決会議で対策を具体的に決め実行に移すには、7つのステップを守らなければならない。まず.会議の目的を皆に理解させる。次に会議では、問題に関する情報やアイデアをなるべく多く出す。そして出された情報やアイデアを分類・整理し、深める。更に問題と対策などにズレがないか確認し、プランを検証する。また事前に反論に備える。最後に議事録を作成し全員の確認を取る。
ステップ1:会議の目的を理解する
会議を開催する時は、ロジカルライティングで学習した「総論」を活用しメンバーの目的意識を高める。(図2参照)招集時に会議の目的を明示しておくこと、それまでに何をしてくるかを一人ひとりが事前に認識しておくことが大切である。併せて今回の会議のゴール、つまりアイデアを出すことが目的なのか、意見を調整することが目的なのか、意思決定することが目的であるかを告げておくことが無駄な会議をなくすことに直結する。
また下記のように5W1Hで会議を整理することも有効である。いずれにしても何のための会議であるか、いつまでに何を決めるかを全員が認識できるようにする。
- Why:そもそも何があったのか(どのような問題点、必要性、効果を期待しているのか)
- When:納期(会議の意思決定と実際のプランの実施期日の両方を考える)
- Who:担当者(会議には利害関係や影響が及ぶ人を全員呼ぶ。)
- Where:場所、担当部署(人だけでなく、該当範囲を組織レベルでも検討する)
- What:何をどうする(問題の定義と重点課題の絞込み)
- How:どのようにして(具体的な行動プラン)
更に、会議の参加メンバーにも熟慮が必要である。極論をすれば、上述の会議を担当部門である住民課を抜きにして会議をすれば、まさしく不毛である。会議テーマで利害関係や影響が及ぶ人は、全員参加してもらう必要がある。また会議の目的や内容を考慮し、メンバーでは考えが及ばなかったり、影響が不足したりする場合は、その能力を持った人をメンバーに入れたり、事前に協力を仰いだりすることが、結果を出せる会議となる。
ステップ2:情報やアイデアを出す
会議開始時に概要はもちろん、終了時刻の案内、今日のゴールやメンバー一人ひとりに対する期待を明確に伝えることである。しかし会議で考え始めるのでは、遅すぎる。会議は仕込みが7割である。読者諸兄も経験があると思うが、会議でアイデアを出そうとしてもその場ではまず生まれない。会議の前に予めアイデアを練ったり、情報を整理したりしておかなければならない。たとえば与えられた課題について、現状はどんなことが起こっているか、過去、背景には何があったか、具体的な懸念は何かを最低限、箇条書きレベルで記述して持参する。このメモを皆で発表し、最初は箇条書きで問題の全容を把握する。(図3参照)会議で話を始めたときに重要なことは、最初から具体的な対策を考えるのではなく、どのような問題があるか、話しを広げることである。広げてから絞り込むことが後々の不満を減少させるだけでなく、意思決定の際の拠りどころとなる考えがでることが多い。
また問題には原因がある。原因には真の原因がある。真の原因まで徹底的に掘り下げることで本質的な問題解決策を実行できる。(図4参照)更に「何故」だけではなく、「何のために」を考えることでより的確な問題解決策を選択できるので質問をしたり、アイデアを多く出したりして議論の幅を最初は広げて欲しい。(図5参照)
こうした議論を進める際に注意しなければならないのが、感情への配慮である。論理>感情ならば、本書のように議事進行してよいが、感情>論理の場合は、発言者の話の本音や背景、発言内容をよく聴くこと。聴いて、聴きぬくことが大切である。結論や対策、アドバイスを急ぐと、議論が進まないばかりか、しこりを残すことになる。
ステップ3:情報やアイデアを分類・整理し、深める
出された情報やアイデアを一枚の紙にまとめて全体像を整理する。整理には「現状・背景」「問題点・必要性」「目的」「プラン」「反論の先取り」に分類し、また全体の課題の関 係がわかるような情報の地図を作成する。(図6参照)次に、出されたアイデアを発展させたり、情報を追加したりして議論を深める。(図7参照)この議論は、忘れることがないように、逐一記録しながら進めることが大切である。また批判や反論を歓迎して、その内容も具体的に記述する。そして皆で批判に対する対策に知恵を出し合う。
ステップ4:情報やアイデアを接続・呼応させる
ここですることは、情報の地図から文章化することである。文章化には「総論」「プラン」「反論の先取り」の順で具体的に情報を整理し、また説明に漏れがないかを確認する。具体的には、育児相談ができないという市民の問題を示しておきながら、育児相談窓口を開けないというプランを選択しないことである。このように問題と対策が呼応していなかったり、原因と結果の説明にズレがないかを確認したりして問題と対策を呼応させる。またフォームに落とし込む際に、更に良いアイデアや重要な情報に気がつくことが多い。もちろんそれらも記述してよい。ただし追加、変更、削除をしたときは、その内容をメンバーに具体的に説明しなければならない。(図8参照)
ステップ5:目的やゴールからプランを検証する
これまでの会議でプランを実施する方向が見えてきた。同時に今後の課題も明らかになった。中間報告を絵に書いた餅にしないようにするには、今後の課題をいかになくすかに尽きる。そのためにはまず、思考の転換が必要である。つまり「できない理由を議論するのではなく、どうすればできるか」を発案し続けることである。もちろん、プランの実行可能性、問題解決性などあらゆる障害の克服策を考え続ける。会議でも「~を実現するには...」というフレーズを使い続ける。(図9参照)
ステップ6:反論に備える
上述の会議を実施しても、100点満点の策を考えることは不可能である。まずは策を実施したときに何がどうなるか、成功をイメージする。その上で、将棋のように二手、三手先を読み、反論への回答を準備しておく。当日の出たとこ勝負だけは避ける。できればプレゼンテーションの練習のように声に出して読み上げ、また仲間から模擬反論や質問をしてもらっておくとよい。
ステップ7:議事録を作成する
発言録をつくるよう指示されない限り、議事録で記す内容は以下の3つである。これ以上細かく書くと読んでもらえない。記述は欠席者が一人で読んでもわかるように書く。議事録は24時間以内に作成する。遅くなると議事録作成者も会議の参加者も議論内容を忘れてしまう。このため議事録作成担当者を会議開催時に決めておくこと。また議事録作成者は議事録作成のスケジュールをあらかじめ用意しておくこと。
- 事務的な内容:会議のタイトル、日時、会場、出席者、作成者、作成日を記す。
- 決まったこと、確認したこと:結論と理由を書く、感想は書かない。
- 決まらなかったこと、新たな課題:次回の会議までに、誰が、何をするかを明記する。
まとめ
会議では配慮・対処しなければならないことが多数ある。段取り、議事進行、発言への配慮、葛藤や対立、いかに知恵を出し合うかなどである。限られた誌面ゆえ問題解決会議のステップのみの記載となってしまった。機会があればその他の項目もご紹介したい。次回は最終回としてロジカルネゴシエーションを取りあげる。
参考(誌面に掲載なし)
>問題解決会議の要素:会議の準備、進行中の備忘録として活用ください。